|
視界いっぱいに降りしきる、
粉雪の向こうに浮かぶのは。
サンタクロースの、赤い服。
深緑色の、クリスマスツリー。
――二色を纏う、貴女の笑顔――
黒々とした大樹を独り見上げながら、絶え間なく降り注ぐ粉雪に包まれる。
夜に降る雪は、まるで星が降ってくるかのように美しいのに、
どうして凍える程に冷たいのだろう。
闇に溶けるかのような黒い枝は、触れると指が僅かに沈み込んで、
まるでこの国を表すかのような感触に、僕はそっと目を伏せた。
そして幻の――緑葉を、懐かしく思い描く。
僕にとって緑は、生命力と安らぎの象徴だった。
そしてその思いは、あの日に一層強くなり、
緑は『葉っぱの色』から『彼女の瞳の色』に変わった。
穏やかに傍らに佇んだ彼女を、一目見た瞬間から。
赤と緑を纏う貴女は、いつも光と温かさに満ちていて。
クリスマスの――幸と恵みの象徴のような主の色そのままの、明るくいきいきとした王宮に居ながら、僕は白く閉ざされた故郷を思い――その静けさと孤独を思って、少しだけ胸が痛かった。
力強い輝きと暖かさに急速に癒されるながらも、
咲き初めの華を手折ってしまいたくなる自分を感じて。
「同じ時空の記憶を共有する友」である僕に、他の人に見せるものとは違う、歳相応で寛いだ口調と笑顔をみせる彼女を前に、友達として振舞うのが辛かった。
哀しみや孤独を経た人たちが作る暖かな『家』は、僕にもとても居心地が良くて。
違和感無く過ごすことが出来た――多分、生まれてから、初めて。
思いやりに満ちた幸せな光に浸っていたい気もしたけれど、まだ早い、と自分を戒めた。
僕には、やらねばならないことがあったから。
その光は、誰の上にも平等に降り注ぐ光だったから。
だから、逃げた。
何も言わずに。
だけど。
蓬莱は僕の居るべき世界ではなかったとしても、
馴染んだものは拭えない。
だから、こんな日には、彼女に傍で微笑っていて欲しいと思う。
手を繋いで二人見上げるのなら、この粉雪もただの綺麗な星に見えるだろうに。
――空駆けて、
彼女を訪なうことが出来たなら。
同じ時空を生きた僕達だから、
「蓬莱の行事だから」という口実で、
逢瀬を気取ることも出来たのに。
僕達二人だけが知る、蓬莱のクリスマスのように。
本当は、誰よりも速く天駆ける脚を持っているのに。
――地に縛られ、心だけ天駆けて雪を見上げる。
降り注ぐ雪の合間から、
雪よりもずっと速い速度で近づいてくるものがあった。
喜びを湛えた瞳で僕だけを見つめ、ただひたすらに僕に向う。
さらさらの雪の上に音も無く降り立った二つの影に、
震える声で語りかけた。
「汕子、傲濫」
「おかえり」
僕の言葉に、黙って頭を垂れる。
「――ありがとう」
思わず漏れた呟きに、二人は更に深く頭を下げた。
本当は、もっとたくさん話したいのに、
今の僕にはこれしか言えない。
伝わるだろうか、僕の心が。
どうしても震えてしまう声から。
足元に落ちた、雫から。
闇に溶ける黒と、雪に溶ける白を抱き寄せながら、
この漆黒と白銀の世界でも鮮やかに浮かび上がるであろう、
緋色を想う。
――紅い太陽が恋しいのは、きっと雪降る夜の所為だけじゃない。
words&music by Modori Karashima
『silent eve』
|