お正月を写そう
              
       
         
 慌しい年の瀬。
陽子は、正月を間近に控えた頃、玄英宮を訪れた。
         
 雁と慶は北部諸国の大事な柱。秋までの収穫物を元に次の年度の荒民対策を打合せるのが、年末の恒例となって久しい。熱心な協議を重ねて合意した後、皆が待っているからと早々に辞去しようとした所を陽子は雁主従に引き止められ、玄英宮の執務室で皆と一緒に茶飲み話をすることになった。
 やはり、明るく微笑む美少女がいるというのは心和む光景だ。皆は慌しい日々のなかふと訪れた安らぎを、それは暖かく歓迎してくれた。
        
 特に、小言を言われながら目いっぱい働かされる日々にうんざりしていた尚隆は、陽子の来訪に上機嫌。榻に陽子と二人並んで座り、幸せそうに見上げてくる愛しい少女の頬や頭を労わるように優しく撫で、慈しむように見つめていた。
        
         
        
「陽子。蓬莱の正月行事というと、何があった?」
 遊びのネタを探す笑顔で問うた延王に、陽子は遠い昔を思い出しつつ指を折って数え上げる。
「えーと、ね。初詣でしょ、初日の出、お年玉、年越し蕎麦、除夜の鐘・・・」
 愛らしく首を傾げて答える陽子をにこにこと見下ろしていたが、ふと、ふむ・・・と考え込んだ。
「神社はないから、初詣は無理だな」
「除夜の鐘をお前がついたって意味ねえしな」
 百八つじゃ百分の一も洗い流せねえよ、と六太がけらけらと笑う。
         
 痛いところを突いてくる半身をちらりと睨めつけておいて、尚隆がぽんと膝を叩いた。
「では、やはり初日の出だな。陽子、一緒に行こ」
 言い終わる前に三臣の睨みが降って来る。
「この忙しい時に、冗談はおよしくださいませ」
「貴様、寝言は寝て言え!」
「いくら何でも正月は居てもらわんと困ると、毎年言っているだろう!まだ覚えんのか」
           
 だが、臣下に叱られてもこの主は屁とも思わない。
陽子から見れば年季を感じさせる泰然さ、他の者から見れば単なる開き直りな、あっけらかんとした態度で尚隆は大らかに笑った。
「なに、慶の夜明けは十二国一早いからな。見て直ぐ戻って」
「来られても、到底間に合いません」
 まるで予測していたかのようなタイミングで、朱衡がさらりと断言する。
「じゃあ、陽子に来」
 暢気な主の言に、皆は一斉に眉を逆立てた。
「もっと不可能です!」
「金波宮を敵に回したいのかお前は!二度と足を踏み入れられなくなるぞ」
「そのような戯言、三百年経っても実現するか」
「歳で呆けたのか?条風で脳みそ洗ってくれば〜?」
三臣が物凄い勢いで怒鳴りつければ、六太が呆れたように畳みかける。
           
段々殺気立ってきた三臣を宥めるべく、
「あの、あの、松の内っていって、七日まではお正月だから・・・。五日過ぎに年始に伺うでしょう?そのとき着物で新年のご挨拶するのはどうでしょう。七日に七草粥を一緒に食べて、皆と国の無病息災をお願いして」 
 陽子が懸命に場を繕おうと試みる。その甲斐あって、朱衡が陽子に打って変わって柔らかく微笑みかけた。
「ああ、それはいいお考えです」
 成笙も穏やかに言葉を繋ぐ。
「陽子様、御自分の健康も忘れずに願われますよう」
 その笑顔はいつも自分を案じてくれる近臣達の笑みと似ていて、陽子は「はい」と素直に頷いた。六太もぽんぽん、と小さな頭を叩いて笑顔で言う。
「それが一番大事だぞ」
 六太の言葉に皆が微笑んで頷く。陽子も照れくさそうに
「ありがとう」
 と雪の中に咲く可憐な花のような笑顔で笑った。
           
            
           
           
 和やかになった座で、尚隆が上機嫌に提案した。
「そういうことなら、俺から着物を贈ろう」
 なかなか(こいつにしては)まともな案じゃないかと、雁国一同が頷いて賛意を示す。
だが、陽子が申し訳なさそうに言った。
             
「それは、あの・・・つい先日、氾王が贈ってくださって・・・」
 尚隆が眉を顰める。
陽子が来る時期と同じくして、範からも毎年使者が来る。陽子の服装はチェックさせるだろうから、別の着物を着せる訳にもいかない。仕方ないなと、譲歩案を提示した。
「ならば、帯」
「も一緒に・・・」
 言いにくそうに返した陽子に、念の為にと溜息交じりに確認する。
「簪も、か・・・・・・」
「ええ・・・・・・」
 陽子が済まなさそうに頷く。
あの男がその点、抜かりのあろう筈はない。一式揃えて贈っているとみていいだろう。
          
            
 だが、尚隆は負けなかった。
もっといえば、氾王に負けたくなどなかった。
陽子に一番身近なのは、自分でなければならない。
尚隆は、彼よりも親密で、かつ強い印象を与えるものを贈るべく、懸命に考えを巡らせた。
         
          
          
          
 ――ややあって。
          
 満面の笑みで大きく頷いた彼は、朗々と宣言した。
「よし!では、襦袢を贈ろう!」
「はあ!?」
 頓狂な男声が揃って響くなか、陽子は一人、不思議そうに首を傾げた。
            
「着物だの帯だのはどうせすぐ脱がすんだしな!身に付けている時間でいったら、襦袢の方が断然長い」
 あたかも勝ちを確信したかのように、自信たっぷりに断言する。
「何が良しなのですか、もう・・・・・・」
 額を抑えて呻く朱衡に、何を言うとばかりに眉を上げて腕組みした。
「どうせ襦袢姿は俺だけが見るのだ。俺が見立てた襦袢を着てもらうのは、良い案ではないか」
 ふんぞり返って自慢げに言い張る主に、皆は最早反論する気も失せてがっくり項垂れる。
「あの、それってどういう・・・・・・」
「ん?ああ。どうやっても振り袖や帯は邪魔になるから、脱いでからの方がいいんだ。汚すと氾の奴が煩いし」
「・・・・・・そう、なの・・・・・・?」
「そうなんだ」
 戸惑う陽子にしたり顔で頷く尚隆へ、頭を抱える三臣を横目で見つつ、呆れ果てた口調で六太が言った。
「会ってすぐ脱がすつもりかよ、お前は」
「当然だ。新年の行事の一環だからな」
「・・・・・・そっかあ?」
 尚隆は思い切り胡散臭げな顔をした半身に「おう」とにやりと笑んで、そのまま陽子に笑顔を向けた。
            
「陽子、大事な行事を忘れているぞ。そら、姫はじ」
「そんな事だけ知ってんじゃねえよ!」
「どこまで恥をさらす気だお前はっ!」

六太と帷湍が怒声とともに、かなり本気の拳骨をくらわせる。
              
              
               
                
 二方向から衝撃を受け、振子のようにびよんびよんと頭を振る五百年王国の王。その痛めつけられた後頭部を、細い手が優しく撫でた。
「え、と・・・・・・」
 忙しさで壊れ気味なのかな、と身も蓋も無い事を思いつつも、陽子は恋人のために懸命に頭を働かせる。暫く考え込んでにっこり笑顔とともに顔を上げ、再びフォローを試みた。
「――じゃあ、貴方と六太君の羽織袴を誂えてくれませんか?」
           
 陽子の言葉に、むくりと起き直った尚隆が、憮然と言った。
「それじゃあ、贈り物にならんだろう」
 だが、陽子は悪戯っぽく目を輝かせて、小首を傾げた。
「あら、そう?だって、私、貴方達の袴姿を見たいんですもの。きっと似合うと思うの」
 だから、私へのプレゼントになるでしょ?と陽子が笑う。
「景麒の分も贈っていただいたんで、それで蓬莱風の4人組が出来あがりなんです」
 まるで秘密を打ち明ける子供のような愛らしい笑顔と仕草に、皆が顔を綻ばせた。
「なかなか風流ですね」
 朱衡の言葉に、陽子が穏やかに返す。
「カルタは景麒に不利ですから、4人で羽根突きして、双六に福笑いして・・・お正月らしいでしょう?」
 陽子らしい無邪気な提案に、六太が細い腕に笑顔でじゃれつく。
「花札しようぜ花札!」
「六太君、教えてね」
 優しい笑顔で微笑み返した少女に、六太は胸を張って頷いた。
「うん!」
 朱衡が苦笑しながら六太に言った。
「台輔、正月から賭け事ですか?あまり大負けなさいませんように・・・・・・」
「どうせ負けるのは主上か台輔のどちらかだろうに」
 帷湍の言葉に、二人分を除く明るい笑い声があがる。
              
 ――こうして、今年最後の景女王の雁国来訪は、にぎやかに過ぎていった。
        
         
           
            
             
「はい、撮りますよー!皆さん、並んで笑ってください」
「入らないので、もう少し寄って・・・・・・そうそう。で、ここの窓を見てくださいね」
「もう、台輔!それが笑顔ですか!?はい、にっこり!わ・ら・っ・て!!」
「それじゃだめだめ。・・・・・・さあ台輔!私の後につけて言って下さいねv
 ――いち、にーvv」
 大忙しの年末年始の行事を無事終えて。
 玄英宮の庭院で、蓬莱風の着物姿の男女4人が楽しそうに遊ぶ姿と、彼らを眺めつつ和やかに談笑する二国の高官達の姿が見られた。そしてそれを目にした者達は、今年も両国の繁栄と、二国の親密さは安泰だと、微笑みあったという。
          
             
              
             
                
 ――後日、陽子の着物姿を見、羽織袴の経緯を聞いた女官達が、
「男物二組なんて、つまらないですわよね!」
「恋人が遅れを取るなんて、玄英宮の名折れですわ!!」
「来年は是非とも、主上に先んじていただかなくては!!!」
 と息巻いたのは、また別のお話。
            
           
             
              

叱られオヤジ・リターンズ。・・・壊れているのは小松ではなく私です。
ううむ。足袋でも良かったかな。←そっちの方がヤバげ。
          
一応、tataさんから正月に頂いていた可愛らしいイラストが元ネタです・・・これを挿小説と言い張るのは気が引けるので〜。記念写真風のイラストだったので、何か裏話が考えられそう、と・・・・・・『裏』違いですわね、ほほほ。アタシ、人間としてどうよ?(悩)
これ、試験直前、毎日夜中帰宅の時期に、寝る瞬間にぽんっ☆と降って来たのでした。6月に正月ネタ。壊れ具合がオヤジと余程シンクロしていたものと思われます。
どうせ浮かぶなら、もっと格調とか品とか〜。←無理無理
次のギャグは是非、エロじゃないギャグを書いてみたく。
広い心で受け取ってくださったtataさま、感謝なのです〜(TT)

        
         
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